東京高等裁判所 昭和28年(う)1174号 判決
被告人 保苅範平
〔抄 録〕
論旨第一点。
然しながら、たとえ、その加えた力そのものにおいては弱小なものがあるにしても、婦女子の意志に反して、その身体髪膚に有形力を加え、或いは、裸体にするため有形力をもつてその身体に接着する衣類を引き剥ぐが如きは、刑法第百七十六条にいわゆる暴行というべきところ(大正十三年(れ)第一五八六号同年十月二十二日第三刑事部判決―大審院刑事判例集第三巻七四九頁参照)証拠によれば、本件各被害者は、いづれも未婚のうら若い女性(Aが満二十二年であつたほか、他はすべて満十五年乃至十八年)であつて、学校の卒業記念にするなどの理由で、写真撮影業を営む被告人の許に写真の撮影に赴むいた際、他人の交通しない撮影室で、依頼写真撮影を終つた後、被告人の無償で海水着姿の写真を撮つてやるとの甘言に気を許し、軽卒にも好奇心から海水着又は海浜着とパンツだけの姿となつて写真を撮つた虚に乗じ、被告人は、若い女性が、このような場合、その特有の慎ましさから、成年の男子の前で裸体になりかけた姿を世間の人に知られることを恐れ恥ぢらい、敢て騒ぎ立てようとしない傾向にあるのを奇貨として、性慾の刺戟興奮のため、いきなり、海水着(又は海浜着)やパンツに手をかけて引き外しにかかり被害者が、驚き嫌がつて抵抗するのを無理に剥ぎ取つて、原判示の如く、或いは裸体にしてその写真を撮り、或いは裸体にされて更に世間に対する羞恥と被告人に対する恐怖の度を加えて殆んど無抵抗となつた被害者の陰部を自らの手指をもつて左右に開き又は強いて開かしめた上その写真を撮影し、或いは、その自由を奪つて被害者の陰部を手指で弄んだりしたことが明らかであつて、冒頭説示するところに照らし、いづれも、被害者の意志に反し、暴行をもつてす猥褻の行為を為したものと言わざるを得ない。被告人の本件各所為が、それぞれ被害者との合意によつて為されたとの所論は、到底採用ができない。而して、記録を精査するも、被告人の司法警察員や検察官に対する供述や各被害者の検察官又は原審裁判官に対する供述の任意性を疑うに由なく、たとえ、各被害者が、被告人から受けた暴行、脅迫の度合について各被害者の検察官に対する供述の内容と原審裁判官に対する供述の内容との間に多少相違するものがあるとするも、原審は、その専ら有する権限に基づき、証拠に対する自由な心証により合理的に判断して、証拠を適法に取捨選択し、右説示するところと同一趣旨の事実を認め、被告人の所為につき、刑法第百七十六条所定の強制猥褻の罪の成立を認めたものであるということができるから原判決における事実認定に対する所論の非難は当らない。これを要するに、原判示事実は、原判決挙示の証拠によつて優にこれを認めることができ、記録を精査するも、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認はない。論旨は理由がない。